初戦・故郷の白球史|49代表地区に残る、勝った夏と負けた夏
北北海道の甲子園初戦クロニクル|旭川大、延長13回の大逆転と帯広農が越えた消えた春
甲子園の夏には、最後の裏がある。
九回裏。
延長十三回裏。
たとえ表の攻撃で突き放されても、まだ攻撃が残されている。
1980年。
北北海道代表の旭川大は、日向学院との初戦で延長十三回へ入った。
一対一。
長い均衡のあと、十三回表に二点を奪われた。
旭川大1-3日向学院。
北海道から運んできた夏が、その瞬間に消えかけた。
だが、まだ裏があった。
一死一、二塁。
四番・鈴木貴久が三遊間を破る。
一点差。
続く菅野が右前へ運び、三塁走者が同点のホームを踏んだ。
二塁走者の鈴木も止まらなかった。
三塁を蹴り、本塁へ突っ込む。
送球は返ってきた。
だが、白球がミットからこぼれた。
旭川大4x-3日向学院。
延長十三回、二点差をひっくり返す逆転サヨナラだった。
そして41年後。
北北海道から、もう一つの忘れ難い初戦が生まれた。
帯広農。
2020年、21世紀枠で選抜された春は、新型コロナウイルスによって消えた。
それでも夏、選抜出場予定校による甲子園高校野球交流試合が開かれた。
帯広農は、全国屈指の強豪・健大高崎を4-1で破った。
招かれた一試合で、彼らは自分たちが弱くないことを証明した。
翌2021年。
今度は北北海道大会を自力で勝ち抜き、39年ぶりに夏の甲子園へ戻った。
相手は、最速157キロ右腕・風間球打を擁する明桜。
最初の試合では、四回を終えて0-5。
だが雨が降り、ノーゲームになった。
三日後の仕切り直し。
帯広農は風間を相手に、一度は2-1と試合をひっくり返した。
最後は2-4で敗れた。
それでも、もう誰も帯広農を「21世紀枠だから来られた学校」とは見なさなかった。
旭川大には、最後の裏が残されていた。
帯広農には、もう一度、試合が与えられた。
北北海道の初戦史には、消えかけた夏へもう一度手を伸ばす球児たちがいる。
北北海道代表の初戦には、長い冬の続きがある
北北海道の球児たちは、甲子園へ来る前に、まず冬と戦う。
雪がグラウンドを覆う。
土の上で白球を追えない。
校舎の廊下。
体育館。
雪を踏み固めた屋外。
限られた場所で体をつくり、雪解けとともに短い野球シーズンへ飛び込んでいく。
昭和の甲子園では、北海道勢が勝つたびに「北国の壁を越えた」と語られた。
だが北北海道には、南北海道とは違う勝利の系譜があった。
旭川の学校。
帯広の学校。
釧路の学校。
広い大地に点在する高校が、長い移動を重ねて代表の座を争った。
1980年の旭川大は、その北北海道の粘りを、延長十三回という長い試合の中で見せた。
2021年の帯広農は、コロナ禍によって一度は失われた甲子園へ、自分たちの力でもう一度戻ってきた。
一つは昭和の逆転サヨナラ。
一つは令和の初戦敗退。
結果は違う。
だが、二校には同じものがある。
終わったと思われた場所で、もう一度立ち上がったことだ。
勝った初戦|1980年、旭川大4x-3日向学院
勝った初戦
- 大会
- 第62回全国高等学校野球選手権大会
- 回戦
- 1回戦
- 球場
- 阪神甲子園球場
- 対戦
- 旭川大(北北海道)4x-3 日向学院(宮崎)
- 試合
- 延長13回
- 投手
- 山田(旭川大)、若松(日向学院)
- 本塁打
- 両校なし
- 特記事項
- 13回表に2点を失った旭川大が、その裏に3点を奪い逆転サヨナラ
四回と五回――一点ずつを取り合った静かな序盤
1980年夏。
北北海道代表の旭川大は、12年ぶり二度目の甲子園へやってきた。
初戦の相手は宮崎代表・日向学院。
旭川大の先発は山田。
日向学院のマウンドには若松が立った。
試合は静かに始まった。
一回、二回、三回。
両校無得点。
四回裏、旭川大が1点を先制した。
しかし、日向学院も五回表に追いつく。
1-1。
そこから試合は、動かなくなった。
六回。
七回。
八回。
九回。
延長十回。
十一回。
十二回。
どちらも得点できない。
旭川大の山田は、直球の速さだけで押す投手ではなかった。
投げる角度を変え、打者のタイミングを外し、日向学院の打線をかわしていく。
一方の若松も、北海道の打線へ決定打を許さない。
甲子園の陽が傾いていく。
試合は一対一のまま、十三回へ入った。
旭川大対日向学院|延長13回のイニングスコア
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 計 | 安打 |
| 日向学院 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 3 | 10 |
| 旭川大 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3x | 4 | 8 |
|
投手
日向学院:若松 |
本塁打
日向学院:なし |
十三回表――二本のスクイズで日向学院が突き放した
十三回表。
長く続いた均衡を、日向学院が破った。
旭川大の山田は、十二回まで一失点で踏ん張っていた。
だが、疲労の見える延長十三回。
日向学院は走者を進め、スクイズを絡めて二点を奪った。
日向学院3-1旭川大。
二点差。
十三回裏を残すだけ。
当時の高校野球に、タイブレークはない。
一点を返すだけでは足りない。
同点にするには二点。
勝つには三点。
しかも旭川大は、それまで若松から七安打に抑えられていた。
北海道から見守る人々の胸に、「ここまでか」という言葉が浮かんでも不思議ではなかった。
だが、野球には裏がある。
その裏が、旭川大に残っていた。
四番・鈴木貴久――三遊間を破った一打
十三回裏。
旭川大は先頭打者が四球で出塁した。
一死後、さらに走者を出し、一、二塁。
打席には四番・鈴木貴久。
のちに近鉄バファローズで長距離打者として活躍する男である。
だが、この夏の鈴木は、まだ北海道の高校生だった。
必要なのは本塁打ではない。
まず一点。
若松の球を捉えた打球は、三遊間を破った。
二塁走者が還る。
3-2。
一点差。
甲子園の空気が変わった。
日向学院のベンチにあった勝利が、少しだけ揺れた。
旭川大のベンチが、一斉に前へ出た。
続く五番・菅野。
打球は右前へ飛んだ。
三塁走者が還る。
3-3。
同点。
だが、劇的な夏はそこで止まらなかった。
鈴木は止まらなかった――二塁からサヨナラの本塁へ
二塁走者の鈴木は、三塁を回った。
右翼から返球が届く。
本塁は、完全にアウトのタイミングに見えた。
それでも鈴木は止まらない。
捕手のミット。
走者の体。
土煙。
そして、白球がこぼれた。
鈴木がホームへ触れる。
サヨナラ。
旭川大4x-3日向学院。
延長十三回裏。
二点を奪われた直後に三点を返す、劇的な逆転勝利だった。
のちにプロで本塁打を重ねる鈴木貴久が、この日は本塁打ではなく、二塁からの激走で夏を救った。
甲子園には、ときどき選手の未来を予告するような場面がある。
豪快な打球。
強肩。
速球。
だが、この日の鈴木が見せたのは、最後まで諦めずに本塁へ向かう力だった。
それはプロで残した数字とは別の場所に刻まれた、鈴木貴久の甲子園だった。
旭川大は日向学院より2本少ない8安打だった。
三振は10。四死球は8。決して打線が若松を完全に攻略した試合ではない。
それでも、最後の十三回裏に四球で走者をため、鈴木と菅野の連打で三点を奪った。
日向学院は41打数10安打、旭川大は39打数8安打。数字だけなら日向学院が上回る。
だが、野球の勝敗は最後の一球がどこへ落ち、最後の走者がどこまで走ったかで決まる。
旭川大対日向学院|詳細記録
| 学校名 | 打数 | 安打 | 打点 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 三振 | 四死球 | 犠打 | 盗塁 | 失策 | 残塁 |
| 日向学院 | 41 | 10 | 3 | 1 | 0 | 0 | 5 | 2 | 7 | 0 | 0 | 8 |
| 旭川大 | 39 | 8 | 4 | 1 | 0 | 0 | 10 | 8 | 3 | 0 | 0 | 9 |
※詳細記録は、朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの提供画面をもとに転記。
1980年、北海道の南と北が並んで勝った
旭川大の夏は、日向学院戦だけで終わらなかった。
2回戦。
相手は愛媛代表の南宇和。
試合は、またしても接戦になった。
旭川大3-2南宇和。
旭川大は二試合続けて一点差をものにした。
同じ夏、南北海道代表の札幌商も勝ち進んでいた。
札幌商は龍谷を九回サヨナラで破り、続く双葉にも勝利。
旭川大と札幌商。
北と南の代表が、ともに二勝を挙げた。
南北北海道代表がそろって16強へ進む、史上初の夏になった。
北海道の高校野球が、一つの地域だけで勝ったのではない。
北も勝った。
南も勝った。
二本の代表旗が、同じ夏に甲子園で二度ずつ揺れた。
当時の北海道民にとって、それは勝敗表以上の出来事だったと思う。
北海道の野球は、本州へ行っても戦える。
厳しい冬を越えたチームが、甲子園で二つ勝てる。
その実感を、札幌商と旭川大が南北から同時に届けた。
旭川大は3回戦で、その年の優勝校となる横浜に0-6で敗れた。
それでも、日向学院戦の延長十三回は消えなかった。
むしろ、優勝校と戦うところまで進んだことで、あの逆転サヨナラは北海道高校野球の入口になった。
負けた初戦|2021年、帯広農2-4明桜
負けた初戦
- 大会
- 第103回全国高等学校野球選手権大会
- 日付
- 2021年8月15日
- 回戦
- 1回戦
- 球場
- 阪神甲子園球場
- 対戦
- 明桜(秋田)4-2 帯広農(北北海道)
- 投手
- 風間(明桜)、佐藤大→水口(帯広農)
- 本塁打
- 両校なし
- 特記事項
- 8月12日の最初の試合は、明桜が5-0とリードした4回終了時点で降雨ノーゲーム
2020年春――甲子園へ行くはずだった帯広農
帯広農の物語は、2021年の夏だけでは始まらない。
2020年春。
帯広農は第92回選抜高等学校野球大会の21世紀枠に選ばれた。
長い冬を越え、春の甲子園へ向かうはずだった。
だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、大会は中止になった。
出場校は決まっていた。
組み合わせも待っていた。
だが、甲子園の試合は行われなかった。
球児たちの春が、始まる前に消えた。
夏の全国選手権も中止。
地方大会から甲子園へ続く、いつもの夏も失われた。
それでも、高校野球は甲子園で一つの舞台を用意した。
選抜に出場する予定だった32校が、一試合ずつ戦う「2020年甲子園高校野球交流試合」である。
帯広農の相手は健大高崎。
機動破壊で全国に知られ、明治神宮大会でも準優勝していた強豪だった。
21世紀枠の帯広農と、全国屈指の健大高崎。
試合前の予想は、健大高崎に傾いていた。
だが、帯広農の選手たちは、甲子園へ思い出をつくりに来たのではなかった。
勝ちに来ていた。
2020年甲子園高校野球交流試合|帯広農4-1健大高崎
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | 安打 |
| 帯広農 | 0 | 2 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 9 |
| 健大高崎 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 8 |
|
投手
帯広農:井村 → 水上 |
本塁打
帯広農:なし |
二回、帯広農は2点を先制した。
健大高崎もその裏に1点を返す。
だが帯広農は三回、五回にも加点した。
九安打。
一発の長打に頼るのではなく、走者を進め、好機で一本を出す。
投げては井村、水上が健大高崎打線を1点に抑えた。
帯広農4-1健大高崎。
選抜が消えた春の代わりに与えられた一試合で、帯広農は堂々と勝った。
それは、単なる番狂わせではなかった。
帯広農が甲子園で戦える学校であることを、自ら証明した一勝だった。
帯広農は交流試合で全国屈指の健大高崎を破った。招待された一試合で終わらず、翌年は北北海道大会を自力で勝ち抜く。「選ばれた甲子園」から「勝ち取った甲子園」へ――この一年こそ、帯広農の物語の中心にある。
帯広農対健大高崎|交流試合の詳細記録
| 学校名 | 打数 | 安打 | 打点 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 三振 | 四死球 | 犠打 | 盗塁 | 失策 | 残塁 |
| 帯広農 | 31 | 9 | 4 | 0 | 0 | 0 | 8 | 1 | 2 | 1 | 4 | 3 |
| 健大高崎 | 34 | 8 | 1 | 2 | 1 | 0 | 4 | 2 | 0 | 1 | 1 | 8 |
※交流試合のスコア、投手、詳細記録は、朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの提供画面をもとに転記。
2021年夏――帯広農は自力で甲子園へ戻った
交流試合の一勝から一年。
帯広農は「また甲子園へ行きたい」と願っただけではなかった。
北北海道大会を勝ち抜いた。
決勝では帯広大谷を19-2で破った。
先発全員安打。
39年ぶり二度目の夏の甲子園出場。
前年は21世紀枠として選ばれた。
今度は、75校の頂点に立って甲子園へ来た。
帯広農の選手たちが掲げた言葉は、「再甲」だった。
再び、甲子園へ。
だが、それは単なる再訪ではない。
選ばれて行く甲子園から、勝って行く甲子園へ。
帯広農は、自分たちの力で舞台へ戻ってきた。
最初の明桜戦――0-5を雨が消した
2021年8月12日。
帯広農の初戦は、秋田代表・明桜との対戦だった。
明桜のエースは風間球打。
最速157キロを記録した、大会屈指の剛腕である。
帯広農は序盤、風間の速球を捉えられなかった。
四回まで無安打。
一方の明桜は、一回に3点。
二回に2点。
四回終了時点で、明桜5-0帯広農。
帯広農にとって苦しい展開だった。
だが、甲子園に雨が降った。
五回表の開始前に中断。
雨は弱まらず、試合はノーゲームとなった。
明桜の5点は消えた。
風間の無安打投球も消えた。
帯広農の0点も消えた。
南北海道編の駒大苫小牧とは、逆の雨だった。
2003年、駒大苫小牧は8-0のリードを雨に消された。
2021年、帯広農は0-5の劣勢を雨に消してもらった。
降雨ノーゲームとなった最初の試合|明桜が5-0とリード
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 計 | 公式記録 |
| 帯広農 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 無効 |
| 明桜 | 3 | 2 | 0 | 0 | 5 | 無効 |
|
試合状況
明桜が5-0とリード |
試合の扱い
降雨ノーゲーム |
※上表は提供された甲子園スコアボード画像と報道記録をもとに作成した中断時点の参考スコア。ノーゲームのため公式記録としては成立していない。
だが、雨が与えたのは勝利ではない。0-5を消し、もう一度0-0から始める権利だけだった。その権利をどう使うかは、帯広農自身に委ねられた。
三日後――帯広農は風間から勝ち越した
雨による順延が続き、仕切り直しの試合は8月15日に行われた。
同じ帯広農。
同じ明桜。
同じ風間。
だが、同じ試合ではなかった。
一回裏、明桜が1点を先制した。
帯広農は三回表に追いつく。
1-1。
さらに四回表。
帯広農が1点を勝ち越した。
帯広農2-1明桜。
三日前には、風間から一本の安打も打てず、0-5とされていた。
その帯広農が、今度は剛腕を相手にリードした。
たった一度の雨で、技術が突然変わるわけではない。
だが、打席で見た速球。
変化球の軌道。
マウンド上の間。
最初の四イニングで得た感覚を、帯広農は三日後へ持ち越した。
試合記録は消えても、選手の体に残った記憶までは消えなかった。
明桜対帯広農|仕切り直しのイニングスコア
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | 安打 |
| 帯広農 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 7 |
| 明桜 | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | x | 4 | 8 |
|
投手
帯広農:佐藤大 → 水口 |
本塁打
帯広農:なし |
五回裏――明桜の集中打
帯広農が2-1とリードして迎えた五回裏。
明桜が反撃した。
二死から四球。
そこから三連打。
一挙3点。
明桜4-2帯広農。
試合は、もう一度ひっくり返った。
帯広農は六回、八回にも得点圏へ走者を進めた。
だが、風間が踏ん張った。
帯広農は七安打。
二塁打三本。
明桜を無安打に抑えられなかった三日前とは、まるで違う攻撃を見せた。
それでも、あと一本が出なかった。
試合終了。
明桜4-2帯広農。
帯広農の夏は初戦で終わった。
だが、そこに「21世紀枠の学校が強豪に敗れた」という物語はなかった。
あったのは、北北海道を自力で勝ち抜いた代表校が、大会屈指の剛腕を相手に一度は勝ち越し、最後まで食らいついた試合だった。
帯広農は風間から七安打を放った。
三振は10を数えたが、二塁打は三本。三回、四回と得点を重ね、一度はリードを奪った。
最初のノーゲームでは四回まで無安打だった。
仕切り直しでは七安打。
雨が勝たせたのではない。雨の前に得た情報を、帯広農が自分たちの打撃へ変えたのである。
明桜対帯広農|詳細記録
| 学校名 | 打数 | 安打 | 打点 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 三振 | 四死球 | 犠打 | 盗塁 | 失策 | 残塁 |
| 帯広農 | 32 | 7 | 2 | 3 | 0 | 0 | 10 | 2 | 1 | 2 | 0 | 6 |
| 明桜 | 28 | 8 | 4 | 1 | 0 | 0 | 3 | 4 | 1 | 2 | 0 | 5 |
※詳細記録は、朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの提供画面をもとに転記。
もう一つの初戦|2020年、帯広農4-1健大高崎
2020年甲子園高校野球交流試合
帯広農 4-1 健大高崎
第92回選抜大会の21世紀枠に選ばれながら、大会中止によって春を失った帯広農。交流試合では全国屈指の健大高崎を九安打で破り、翌年の「自力出場」へつながる自信を得た。
交流試合は、全国優勝を決める大会ではなかった。
勝ち進むトーナメントでもなかった。
各校一試合。
勝っても、次の試合はない。
それでも帯広農にとって、健大高崎戦は大きかった。
甲子園の土で、自分たちの野球が通用した。
全国の強豪を相手に、打って、守って、勝った。
その経験が、翌年の北北海道大会へ持ち越された。
2021年、帯広農は決勝で19点を奪った。
交流試合で見せた打力は、偶然ではなかった。
甲子園へ招かれた学校が、翌年には堂々と代表の座を勝ち取った。
帯広農の物語は、21世紀枠の美談だけではない。
選ばれた機会を力へ変え、その力で次の甲子園をつかんだ物語である。
旭川大と帯広農|もう一度残された夏
1980年・旭川大
旭川大4x-3日向学院
延長13回表に2点を失い、1-3。だがその裏、鈴木貴久と菅野の連打で追いつき、二塁走者の鈴木が本塁へ突入して逆転サヨナラを完成させた。
旭川大は次戦でも南宇和を破り、札幌商とともに史上初の南北北海道アベック16強へ進んだ。
2021年・帯広農
明桜4-2帯広農
最初の試合では明桜に0-5とリードされたが、4回終了後に降雨ノーゲーム。仕切り直しでは風間から一度は2-1と勝ち越した。
敗れはしたが、前年の21世紀枠、健大高崎戦の勝利、39年ぶりの自力出場まで含め、帯広農の実力を全国へ示した。
旭川大には、延長十三回裏が残っていた。
帯広農には、雨によってもう一試合が残された。
旭川大は、その最後の裏で勝った。
帯広農は、二度目の試合で一度はリードを奪ったが、最後は届かなかった。
だが、勝敗だけで二つの初戦を分けることはできない。
旭川大は、終わりかけた夏を走ってつかんだ。
帯広農は、消えた春のあと、交流試合で勝ち、さらに自力で夏へ戻った。
敗戦の日にも、帯広農は弱さではなく強さを残した。
初戦とは、その学校が初めて全国の視線にさらされる場所である。
そこで勝つこともある。
そこで敗れることもある。
だが、本当に残るのは、スコアだけではない。
最後まで走った姿。
もう一度立ち上がった姿。
北北海道の二試合には、その両方がある。
まとめ|北北海道の白球は、消えた場所から戻ってくる
1980年。
旭川大は第62回全国高等学校野球選手権大会へ、北北海道代表として出場した。
初戦の相手は宮崎代表の日向学院。
四回に旭川大が先制。
五回に日向学院が追いつき、試合は延長へ入った。
延長十三回表。
日向学院が二点を勝ち越した。
日向学院3-1旭川大。
だが十三回裏。
旭川大は一死一、二塁から四番・鈴木貴久の適時打で一点差。
続く菅野の右前打で同点。
二塁走者の鈴木も本塁へ突入し、逆転サヨナラのホームを踏んだ。
旭川大4x-3日向学院。
旭川大は次戦でも南宇和を3-2で破った。
同じ夏、南北海道代表の札幌商も二勝。
南北北海道代表がそろって16強へ進む、史上初の夏となった。
2020年。
帯広農は第92回選抜大会の21世紀枠に選ばれた。
だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって大会は中止。
春の甲子園は消えた。
夏に開かれた甲子園高校野球交流試合で、帯広農は健大高崎を4-1で破った。
翌2021年。
今度は北北海道大会を自力で勝ち抜き、39年ぶりに夏の甲子園へ出場した。
初戦は明桜。
最初の試合では、四回終了時点で0-5。
だが雨によってノーゲームとなった。
三日後の仕切り直し。
帯広農は三回に同点、四回に勝ち越し。
最速157キロ右腕・風間を相手に2-1とリードした。
五回、明桜に3点を奪われ逆転された。
明桜4-2帯広農。
帯広農の夏は初戦で終わった。
だが、21世紀枠として選ばれた春。
健大高崎を破った交流試合。
北北海道を自力で勝ち抜いた夏。
そのすべてが、二点の中に残っていた。
旭川大には、最後の裏が残された。
帯広農には、もう一試合が残された。
勝った夏と、負けた夏。
二つの結果は違う。
けれど、北北海道の球児たちは、どちらも終わったと思われた場所から戻ってきた。
灼熱の甲子園の土は、北国の冬を知らない。
だが、長い冬を越えた選手たちは知っている。
雪に閉ざされた時間にも、春は準備されていることを。
雨に消された試合のあとにも、もう一度、白球を追える日が来ることを。
あの夏の白球は、今も心を走り続けている。
北北海道の甲子園初戦史に関するFAQ
関連記事・内部リンク
使用した主な情報ソース
-
朝日・日刊スポーツ高校野球大会アーカイブ「旭川大―日向学院」
1980年夏1回戦の延長13回のイニングスコア、旭川大4-3日向学院、投手を確認するため参照した。 -
日刊スポーツ「旭川大高 体当たりで本塁突入ボールがこぼれ落ちた」
13回表に2点を失った後、鈴木貴久の適時打、菅野の右前打、鈴木の本塁突入によって逆転サヨナラとなった経過を確認した。 -
朝日・日刊スポーツ大会アーカイブ「1980年第62回選手権大会」
旭川大が日向学院、南宇和を破り、札幌商とともに南北北海道代表が勝ち進んだ大会経過を確認した。 -
朝日・日刊スポーツ高校野球大会アーカイブ「旭川大―南宇和」
旭川大が2回戦で南宇和を3-2で破り、夏2勝を挙げた記録を確認した。 -
日本高等学校野球連盟「2020年甲子園高校野球交流試合 実施概要」
第92回選抜大会出場予定の32校へ甲子園で一試合を提供した交流試合の目的、名称、開催方法を確認した。 -
阪神甲子園球場「2020年甲子園高校野球交流試合 大会日程」
2020年8月16日の帯広農4-1健大高崎という試合結果を確認した。 -
日刊スポーツ「『再甲』帯広農19得点で39年ぶり甲子園」
帯広農が北北海道大会決勝で帯広大谷を19-2で破り、39年ぶり二度目の夏の甲子園出場を決めた経過を確認した。 -
日刊スポーツ「帯広農に恵みの雨、明桜・風間攻略の糸口」
明桜が4回終了時点で5-0とリードし、風間が帯広農を無安打に抑えていた試合が降雨ノーゲームとなった経過を確認した。 -
毎日新聞「明桜対帯広農は降雨ノーゲーム」
五回表開始前に雨で中断し、明桜対帯広農がノーゲームとなったことを確認した。 -
一球速報.com「第103回全国高等学校野球選手権大会 明桜―帯広農」
仕切り直しの試合における得点経過、帯広農が一度2-1とリードした後、明桜が五回に逆転して4-2で勝利した記録を確認する補助資料とした。
旭川大―日向学院、帯広農―明桜、帯広農―健大高崎のイニング、投手、詳細記録は、朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの提供画面および掲載資料をもとに作成した。2021年8月12日の明桜―帯広農は、提供された甲子園スコアボード画像と報道記録を照合し、明桜が5-0とリードした4回終了時点で降雨ノーゲームと表記した。ノーゲームの得点や投球は公式記録として成立しないため、本文の表は中断時点の試合経過を示す参考表である。1980年の日向学院戦における本塁上のプレーは当時の試合記録に基づく描写であり、現在の走者と捕手の接触に関する規則や安全基準とは異なる場合がある。

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