富山の甲子園初戦クロニクル|富山商が11年ぶりの県勢勝利、高岡商は8点差を追いついた

北信越

初戦・故郷の白球史|49代表地区に残る、勝った夏と負けた夏
富山の甲子園初戦クロニクル|旋風ではなく、県の高校野球を支え続けた「両商」の夏

富山の甲子園史で「旋風」と言えば、まず魚津と新湊が浮かぶ。

魚津には蜃気楼旋風。

新湊には新湊旋風。

一度の大会で全国の高校野球ファンに強烈な記憶を残す、いかにも甲子園らしい物語だ。

でも、富山の高校野球を長く支えてきたのは、そういう「一夏の旋風」だけではない。

富山商。

高岡商。

昭和から令和まで、何度も県大会の中心にいて、何度も甲子園へ行き、何度負けてもまた帰ってくる。

富山高校野球を語る時、この二校は外せない。

今回選んだのも、その「両商」だった。

1998年、富山商。

強豪・報徳学園相手に、5回まで無安打。

それでも7回、4番・平井の満塁本塁打などで一気に6点。

8-4。

富山県勢にとって11年ぶりの夏の白星だった。

2015年、高岡商。

3回終了時点で関東第一に0-8。

普通なら、もう終わったと思う。

ところが4回に7点。

6回に追いつく。

さらに8回、もう一度10-10。

最終スコアは10-12。

勝った富山商も、負けた高岡商も、普通なら折れるところで折れなかった。

どうやら富山の「両商」には、簡単には終わらないという共通点があるらしい。

この記事の30秒要約

勝った初戦は1998年の富山商8-4報徳学園。富山商は5回まで無安打で、7回表には2-4と逆転されたが、その裏に片山の適時打などで追いつき、4番・平井孝英が満塁本塁打。一挙6点で8-4とした。県勢は1988年から1997年まで10大会連続で代表校が初戦敗退しており、富山商は11年ぶりの夏勝利を届けた。

負けた初戦は2015年の高岡商10-12関東第一。3回までに0-8とされたが、4回に7点、6回に田越義史の適時打で8-8。7回に再び2点を勝ち越された後も、8回に田越が2点三塁打を放って10-10。田越は4安打5打点だった。敗れはしたが、この「8点差でもやめない」粘りは、数年後の2018・19年に2年連続で甲子園2勝を挙げる高岡商を先取りしていたようにも見える。

富山代表の「勝った初戦」|1998年・富山商8-4報徳学園

5回まで無安打。7回表には2-4。
それでも7回裏、富山商は6点を奪った。最後は4番・平井の満塁本塁打。県勢10大会連続初戦敗退の重い空気を、一振りで吹き飛ばした。

富山商対報徳学園|イニングスコア

学校名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 計 安打
報徳学園 1 0 0 0 0 0 3 0 0 4 10
富山商 0 0 0 0 0 2 6 0 x 8 5
投手

報徳学園:松村 → 南
富山商:松本 → 平井

本塁打

報徳学園:なし
富山商:平井

富山県勢、10大会連続「出ると負け」

1998年の甲子園を語る前に、少し時計を戻したい。

1987年、高岡商が長崎商を5-4で破った。

それが最後だった。

1988年から1997年まで、富山県勢は夏の甲子園で10大会連続初戦敗退。

代表校が変わっても、勝てない。

富山商が出ても、新湊が出ても、高岡商が出ても、初戦で止まる。

高校野球ファンというのは、こういう連敗を意外によく覚えている。

「富山はまた厳しいかな」

そんな空気が、試合前から県代表の肩に乗る。

しかも1998年の初戦相手は報徳学園。

兵庫の名門。

名前だけでも、楽な相手ではない。

5回まで無安打。それでも試合は終わらない

富山商は初回、報徳学園に1点を先制された。

そして5回まで、安打が出ない。

0-1。

10大会連続初戦敗退という背景を知っていると、この「0-1」が妙に重く見える。

ところが6回。

富山商がようやく打線をつなぎ、2点。

2-1。

初めて前に出た。

しかし7回表。

報徳学園が3点。

2-4。

県勢11年ぶりの白星は、また遠のいたように見えた。

7回裏。11年分の鬱憤を一気に

ところが、その裏だった。

富山商が反撃する。

片山の適時打。

押し出し。

4-4。

なお満塁。

打席には4番・平井孝英。

右中間へ。

満塁本塁打。

一気に8-4。

5回まで一本も打てなかったチームが、7回終了時には8点取っていた。

高校野球は、本当に分からない。

平井は打っただけではない

この試合の平井を「満塁本塁打の4番」とだけ呼ぶと、少し足りない。

平井は投手でもあった。

先発は松本。

途中から平井がマウンドへ上がった。

投げて試合を締め、打って満塁本塁打。

まさに投打の中心だった。

しかも平井はこの年3年生。

卒業後も三菱自動車岡崎、北銀クラブで野球を続けている。

たまたま一日だけ当たった打者ではない。

高校を出ても野球を続けるほどの選手が、甲子園で投げて打って、県勢の連敗を止めた。

こういう試合は、後から振り返るほど主人公がはっきりして見える。

富山商8-4報徳学園|詳細記録

学校名 打数 安打 打点 二塁打 三塁打 本塁打 三振 四死球 犠打 盗塁 失策 残塁
報徳学園 33 10 4 0 1 0 2 4 4 2 2 10
富山商 25 5 8 1 0 1 6 8 2 0 1 3

※詳細記録は、朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの提供画面をもとに転記。得点と打点は、失策、野選などによって一致しない場合がある。

村瀬メモ|11年分の鬱憤を、4番の満塁弾で吹き飛ばした

富山県勢が夏の甲子園で10大会連続初戦敗退。

この記録だけを見れば、「弱かった時代」と簡単にまとめたくなる。

でも実際には、毎年違う高校生が県大会を勝ち抜き、甲子園へ来ている。

彼らにとって過去10年の連敗は、自分たちの責任ではない。

それでも県代表になれば、全部まとめて背負わされる。

1998年の富山商も、たぶんそうだったと思う。

5回までノーヒット。
7回表に逆転される。

「ああ、今年もか」――。

県内のどこかで、そんな声が出ても不思議ではない。

その空気を、平井の一発が全部ひっくり返した。

満塁本塁打。

一振りで4点。
一振りで11年。

高校野球には、たまにそういうホームランがある。

次戦も3-5。富山商は簡単には終わらなかった

富山商は2回戦で滑川と対戦した。

埼玉代表。

最終スコアは3-5。

初戦のような大逆転は起こらなかった。

それでも、11年ぶりの一勝をつかんだ夏は、県の高校野球に小さくない意味を残した。

富山県勢は「甲子園へ出ても勝てない」という空気を、一度ここで切った。

富山代表の「負けた初戦」|2015年・高岡商10-12関東第一

3回終了、0-8。
それでも4回に7点。6回に8-8。さらに8回、もう一度10-10。高岡商は二度、試合を振り出しへ戻した。

関東第一対高岡商|イニングスコア

学校名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 計 安打
高岡商 0 0 0 7 0 1 0 2 0 10 12
関東第一 1 0 7 0 0 0 2 2 x 12 13
投手

高岡商:林 → 北村
関東第一:阿部 → 小松原 → 金子 → 田辺

本塁打

高岡商:なし
関東第一:伊藤(林)

3回で0-8。普通なら、ここで終わる

関東第一が初回に1点。

そして3回。

一挙7点。

高岡商0-8関東第一。

甲子園で8点差。

しかもまだ3回。

後ろには全国の強豪・関東第一。

普通なら、ここから記事は「意地の反撃を見せた」で終わる。

ところが高岡商は、本当に追いついた。

4回、7点。田越の反撃が始まる

4回表。

先頭は3番・田越義史。

左前打。

そこから打線がつながる。

一挙7点。

7-8。

8点差が、たった一イニングで1点差になった。

そして6回。

また田越。

適時打。

8-8。

本当に追いついた。

もう一度2点差。そして、もう一度田越

7回裏。

関東第一が2点。

8-10。

せっかく8点差を追いついたのに、また突き放された。

普通なら、今度こそ終わる。

でも8回表。

二死一、二塁。

田越が右越えへ2点適時三塁打。

10-10。

二度目の同点。

田越は4安打5打点。

同点打を二度。

一人の高校生が、甲子園でここまで試合を引き戻すことがある。

最後は12-10。それでも涙はなかった

8回裏。

関東第一が2点。

12-10。

今度は高岡商も返せなかった。

試合後、吉田真監督は選手たちの粘りを称えた。

デイリースポーツには、「甲子園は魔物と神様の両方がいたような感じ」という指揮官の言葉が残っている。

負けた。

でも0-8から10-10まで戻した。

選手たちは、自分たちが甲子園で何かを見せたという感触を持って帰れたのではないか。

僕には、そんな試合に見える。

関東第一12-10高岡商|詳細記録

学校名 打数 安打 打点 二塁打 三塁打 本塁打 三振 四死球 犠打 盗塁 失策 残塁
高岡商 35 12 8 2 1 0 6 7 1 1 3 6
関東第一 33 13 9 2 2 1 9 7 4 1 2 8

※詳細記録は、朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの提供画面をもとに転記。得点と打点は、失策、野選などによって一致しない場合がある。

村瀬メモ|0-8から追いついた日、高岡商の「しぶとさ」はもう見えていた

2015年の高岡商が、その後の2018、19年の強さを直接生んだ――。

そこまで単純な因果関係は、資料からは言えない。

でも後から見ると、あの関東第一戦には、数年後の高岡商らしさがもう出ていたように思う。

0-8でも、やめない。

8-10ともう一度離されても、また追いつく。

そして3年後。
2018年の高岡商は佐賀商、佐久長聖を破って3回戦へ。

相手は春夏連覇を狙う大阪桐蔭。

高岡商は1-3。
山田龍聖は8安打、11奪三振、3失点。

全国最強と言われた根尾、藤原らの大阪桐蔭を相手に、最後まで試合を壊さなかった。

そして翌2019年。
また2勝。
また3回戦。
今度は履正社に4-9。

その履正社が全国優勝した。

2年連続で甲子園2勝。
そして2年連続、最後に負けた相手が全国王者。

2015年、8点差を追いついたチームを見て「この学校、しぶといな」と感じた人がいたなら、その感覚は数年後、もっと大きな形になった。

吉田真監督にとっても、始まりの甲子園だった

2015年は、高岡商を率いる吉田真監督にとって、監督として初めての甲子園だった。

32歳。

若い監督だった。

その最初の甲子園で、0-8から10-10まで戻す試合を経験した。

そして数年後には、2018、19年と2年連続で3回戦へ進む。

選手だけでなく、指導者も甲子園で育っていく。

2015年の関東第一戦は、高岡商という学校にとっても、吉田監督にとっても、「全国でどう戦うか」を知る一日だったのかもしれない。

富山商と高岡商|富山高校野球の「両商」

魚津や新湊には、旋風という言葉が似合う。

富山商と高岡商には、積み重ねという言葉が似合う。

毎年のように県大会の上位へ来る。

甲子園へ何度も出る。

そして負けても、数年後にはまたいる。

2026年の富山県高野連の強化招待試合でも、大阪桐蔭を迎える相手に富山商、高岡商の名が並んでいる。

時代が変わっても、県を代表する学校として扱われ続けている。

だから今回、魚津や新湊を既出として外したことで、かえって富山県の別の顔が見えた。

一度の旋風ではなく、何十年も続く競争。

富山商と高岡商。

この二校がいるから、富山の高校野球には「また今年もどちらか来るかもしれない」という日常がある。

村瀬メモ|旋風は一夏、名門は何十年

高校野球の記事では、どうしても「旋風」の方が書きやすい。

突然現れた学校が全国の強豪を倒す。
そこには分かりやすい物語がある。

でも、富山商や高岡商のような学校の価値は、そこだけでは測れない。

甲子園へ何度も来る。
県大会で何度も勝つ。
負けても、また次の世代が戻ってくる。

それを20年、30年、50年と続ける。

派手ではない。
でも、それは「旋風」より難しいことかもしれない。

1998年の富山商。
2015年の高岡商。

二つの試合を並べると、富山高校野球の骨格を長く支えてきた学校のしぶとさが見えてくる。

まとめ|富山の「両商」は、簡単には終わらない

1998年の富山商は、5回までノーヒットだった。

それでも8-4で勝った。

2015年の高岡商は、3回まで0-8だった。

それでも10-10まで戻した。

片方は勝った。

片方は負けた。

でも、二校とも「普通なら終わるところ」で終わらなかった。

富山商と高岡商。

富山県の高校野球を長く支えてきた二つの商業高校には、そんな共通点があるように思う。

旋風ではなく、積み重ね。

それもまた、甲子園の歴史である。

富山の甲子園初戦史|よくある質問

Q1.1998年の富山商はなぜ特別だった?
A.報徳学園に8-4で勝ち、1988年から続いていた富山県勢の10大会連続初戦敗退を止めました。県勢にとって11年ぶりの夏の甲子園勝利でした。
Q2.富山商・平井孝英は報徳学園戦で何をした?
A.投手として登板し、打者としては7回裏に満塁本塁打を放ちました。富山商はこの回に6点を奪い、2-4から8-4へ逆転しました。
Q3.2015年の高岡商は本当に8点差を追いついた?
A.はい。3回終了時点で0-8でしたが、4回に7点、6回に1点を挙げて8-8。同点後に再び2点差をつけられましたが、8回にも2点を返して10-10としました。
Q4.高岡商・田越義史の成績は?
A.関東第一戦で4安打5打点。6回と8回に同点打を放ち、8点差を追いつく反撃の中心になりました。
Q5.高岡商は2018年と2019年にどこまで進んだ?
A.どちらも甲子園で2勝し、3回戦まで進みました。2018年は全国優勝した大阪桐蔭に1-3、2019年は全国優勝した履正社に4-9で敗れました。

関連記事

使用した主な情報ソース

高校野球史 甲子園篇|富山県勢の甲子園全試合結果
https://data-man.com/kokoyakyu/pref/toyama/game/
1998年富山商8-4報徳学園、県勢の過去の初戦結果、2018・19年高岡商の戦績確認に使用。

甲子園台帳|富山商の甲子園出場記録・メンバー
https://www.kokoshinro.com/school.php?name=%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E5%95%86
1998年の監督、平井孝英を含むメンバー、平井の卒業後進路などを確認。

高校野球史 甲子園篇|1998年夏の大会本塁打
https://data-man.com/kokoyakyu/meeting/1998/summer/homerun/
平井孝英の報徳学園戦本塁打を確認。

朝日・日刊スポーツ高校野球大会アーカイブ|2015年 関東第一vs高岡商
https://smart.asahi.com/v/koshien/game/2015/400/130118/index.php
高岡商10-12関東第一のイニングスコア、投手、本塁打、8点差からの反撃、田越の5打点を確認。

日刊スポーツ|高岡商、8点差追いつくも7年ぶり甲子園勝利ならず
https://www.nikkansports.com/baseball/highschool/news/1521357.html
田越義史の4安打5打点、二度の同点打、吉田真監督のコメントを参照。

デイリースポーツ|粘りの高岡商 8点差追いついたが力尽く
https://www.daily.co.jp/hsbaseball/2015/08/12/0008296653.shtml
吉田監督の「甲子園は魔物と神様の両方がいたような感じ」という回想、中川主将のコメントを参照。

朝日・日刊スポーツ高校野球大会アーカイブ|2018年 大阪桐蔭vs高岡商
https://smart.asahi.com/v/koshien/game/2018/400/170624/index.php
高岡商1-3大阪桐蔭、山田龍聖の8回8安打11奪三振3失点を確認。

日刊スポーツ|2019年 高岡商3回戦
https://www.nikkansports.com/baseball/highschool/news/201908170000308.html
2019年に高岡商が2年連続で3回戦へ進み、履正社に4-9で敗れたことを確認。

甲子園台帳|高岡商の甲子園出場記録・メンバー
https://www.kokoshinro.com/school.php?name=%E9%AB%98%E5%B2%A1%E5%95%86
2018年、2019年の2年連続2勝、各大会の勝ち上がりを確認。

富山県高等学校野球連盟
https://www.toyama-hbf.jp/
現在の富山県高校野球の大会情報、富山商・高岡商が県の強化招待試合に選出されるなど、両校が現在も県を代表する存在であることを補助的に参照。

本記事は、公開されている大会記録、報道記事、高校野球関連資料および朝日・日刊スポーツ大会アーカイブの記録画面を照合し、筆者の記憶と考察を加えて再構成した。2015年の高岡商が後年の2018・19年の強さへ「直接つながった」とは断定せず、試合で見せた粘りと後年の戦績を重ねた筆者の解釈として記述している。選手名、学校名、記録は当時の表記を基本とした。
タイトルとURLをコピーしました