2026年8月15日。
三重高校が履正社を5-2で破り、夏の甲子園ベスト8へ進んだ。
実に12年ぶりだという。
12年前。
2014年夏。
三重高校は決勝まで行った。
大阪桐蔭に3-4。
あと一歩で全国制覇という、あの夏である。
けれど、あの準優勝は最初から順風満帆だったわけではない。
むしろ初戦の九回、三重の夏は終わりかけていた。
相手は広陵。
2-4。
九回裏、二死。
そこから追いついた。
そして延長十一回、最後の1点は、ヒットではなかった。
押し出し四球。
振らずに決まったサヨナラ勝ちだった。
2026年8月18日追記|12年ぶりのベスト8で、三重の夏は終わった
2026年夏、三重高校は2回戦で松商学園を5-3、3回戦では履正社を5-2で破り、
2014年の準優勝以来、12年ぶりとなるベスト8まで勝ち進んだ。
準々決勝では天理に敗れ、12年ぶりの4強入りには届かなかった。
それでも、大会終盤まで「三重」の二文字が残った夏だった。
僕には、それだけで十二年前の記憶がふっと戻ってくる。
2014年の三重も、最初から「決勝まで行くチーム」に見えていたわけではない。
一つの初戦を、ぎりぎりで拾ったところから始まったのである。
だからこそ今、あの広陵との初戦をもう一度振り返ってみたい。
三重代表の「勝った初戦」|2014年・三重5-4広陵
延長11回2死満塁、宇都宮東真が押し出し四球を選んでサヨナラ。
この「終わりかけた初戦」から、準優勝への長い夏が始まった。
三重対広陵|延長11回のイニングスコア
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 計 |
| 広陵 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
| 三重 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1x | 5 |
|
投手
広陵:吉川 |
本塁打
広陵:吉川(今井) |
三季連続甲子園。それでも「全国では勝てない」と言われていた
2014年夏の三重高校は、甲子園そのものに慣れていないチームではなかった。
前年の春、前年の夏、そしてこの夏。
三季連続の甲子園だった。
けれど、全国で勝てていなかった。
甲子園へ出ても、初戦で帰る。
当時の選手たちには、「三重は全国では勝てない」と見られる悔しさがあったという。
その言葉をひっくり返す最初の相手が、よりによって広陵だった。
広陵が先手。三重が追いつく。それでも七回、また2点
二回表、広陵が2点を先制した。
三重は四回裏に2点を返す。
2-2。
ところが七回、広陵が再び2点。
2-4。
そのまま八回も終わった。
三重に残された攻撃は、あと一度だった。
九回二死――佐田の一打で、終わるはずだった夏が続いた
九回裏。
しかも二死。
三重は走者をため、満塁まで持っていった。
打席には佐田。
中前への適時打。
二人が生還した。
4-4。
あと一つアウトを取られていれば終わっていた三重の夏が、突然もう一度動き始めた。
十一回二死満塁――最後に勝負を決めたのは「見送った一球」
延長十一回。
三重は二塁打、広陵の失策、敬遠四球などで二死満塁とした。
打席には宇都宮東真。
カウントが進む。
そして5球目。
宇都宮は振らなかった。
ボール。
押し出し。
5-4。
三重のサヨナラ勝ちだった。
2014年の三重というと、どうしても僕らは「準優勝した三重」として思い出す。
今井重太朗が投げ続けた。
沖縄尚学を破った。
日本文理を完封した。
そして大阪桐蔭と3-4の決勝を戦った。
でも、その物語を後ろから眺めてしまうと、最初から強いチームが順当に勝ち上がったように見えてしまう。
違う。
初戦の九回二死、三重は負けていた。
あと一つアウトを取られていたら、「2014年夏の三重高校準優勝」という物語そのものが存在しなかった。
そして最後の一球も面白い。
打って決めたのではない。
見送った。
新しく就任した中村好治監督は、打撃練習の中で選手自身に球審をさせ、ボールとストライクを見極める訓練もしていたという。
その夏の最初の勝利が、延長十一回二死満塁からの押し出し四球だった。
高校野球は不思議である。
後から見れば「全国準優勝校」。
その瞬間だけを見れば、「あと一球で終わりかけたチーム」。
長い夏は、ほんの一球の向こう側に隠れていることがある。
今井重太朗と、止まらなくなった三重
広陵を破った三重は、そこから止まらなくなった。
2回戦、大垣日大に4-2。
3回戦、城北に7-5。
準々決勝、沖縄尚学に9-3。
準決勝、日本文理に5-0。
決勝、大阪桐蔭。
3-4。
全国制覇まで、あと1点だった。
その中心にいたのが左腕・今井重太朗である。
今井は決勝までの全6試合に先発。約2週間で814球を投げ、三重の長い夏を支え続けた。
そして2026年。
その三重高校が、再び夏の甲子園でベスト8に入った。
2014年以来、12年ぶり。
履正社を破って決めた8強である。
もちろん、今井たちのチームと今年のチームは別のチームだ。十二年も経っている。比較する必要もない。
それでも、「三重、12年ぶり8強」という文字を見れば、僕らの記憶は自然に2014年へ戻る。
初戦の九回二死。
2点差。
そこから始まった、あの夏へ。
高校野球には、こうして昔の試合を突然現在へ連れ戻してくる瞬間がある。
三重代表の「負けた初戦」|2007年・宇治山田商4-4佐賀北、再試合1-9
のちに全国を制する佐賀北を相手に、一度は4-2と逆転。延長15回でも決着せず、4-4の引き分け再試合となった。
2007年8月14日|佐賀北対宇治山田商、延長15回
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 計 |
| 佐賀北 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
| 宇治山田商 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
|
投手
佐賀北:馬場 → 久保 |
本塁打
佐賀北:なし |
二点を追って、五回に一挙4点
試合は、佐賀北が初回に2点を先制した。
0-2。
しかし宇治山田商は五回、試合を一気にひっくり返した。
中井の3点三塁打などで4点。
4-2。
のちに全国を制する佐賀北を、宇治山田商が追いかける展開ではない。宇治山田商の側が、佐賀北を追い詰めていた。
六回、七回。佐賀北が1点ずつ返す
佐賀北は六回、代打・新川の適時打で1点。
七回には田中の適時打。
4-4。
そこから、点が入らなくなった。
八回。九回。
延長十回、十一回、十二回、十三回、十四回。
十五回。
宇治山田商・中井、佐賀北・久保。二人の右腕が、最後まで得点を許さなかった。
4-4。十五回を終えても、勝者はいなかった
十五回が終わった。
4-4。
当時の規定により、引き分け再試合となった。
佐賀北10安打。
宇治山田商9安打。
数字を見ても、ほとんど互角だった。
2007年夏の佐賀北を語れば、どうしても後半の試合が主役になる。
帝京との延長十三回。
そして広陵との決勝。
八回裏の大逆転。
「がばい旋風」である。
でも、その物語がまだ全国的な大旋風になる前、十五回まで佐賀北を止めた学校があった。
宇治山田商だった。
しかも一度は4-2とリードしている。
結果を知っている僕らは、つい「優勝した佐賀北の途中経過」としてこの試合を見てしまう。
けれど、2007年8月14日の時点では誰も知らない。
佐賀北が優勝することも。
帝京を倒すことも。
広陵を逆転することも。
甲子園にあったのはただ、佐賀北と宇治山田商が4-4のまま十五回まで戦っているという現実だけだった。
歴史は、後から見ると一本の線になる。
その時を生きている選手たちには、次のページなど見えない。
だからこそ、僕はこの試合が好きなのである。
2007年8月16日|再試合・佐賀北9-1宇治山田商
| 学校名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 佐賀北 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 | 4 | 1 | 0 | 9 |
| 宇治山田商 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
|
投手
佐賀北:馬場 → 久保 |
本塁打
佐賀北:なし |
今度は宇治山田商が先制した
再試合は8月16日。
史上5度目となる、夏の甲子園の引き分け再試合だった。
三回、宇治山田商が1点を先制した。
また宇治山田商が先に前へ出た。
しかし、十五回を戦った二日前と同じ試合にはならなかった。
佐賀北は四回に追いつくと、六回に3点、七回に4点。
八回にも1点。
9-1。
宇治山田商の夏は、そこで終わった。
負けた相手は、そのまま全国の頂点まで行った
宇治山田商との再試合を突破した佐賀北は、その後も勝ち続けた。
前橋商に5-2。
帝京に延長十三回4-3。
準決勝は長崎日大に3-0。
そして決勝。
広陵に5-4。
全国優勝した。
宇治山田商と佐賀北は、二試合で合計24イニングを戦った。
最初の十五回は4-4。
再試合は1-9。
最後のスコアだけを見れば、力尽きたようにも見える。
実際、そうだったのかもしれない。
けれど僕は、一試合目のスコアを忘れたくない。
十五回を戦っても、佐賀北は宇治山田商を倒せなかった。
そして、その佐賀北が全国優勝した。
高校野球には、「優勝校に負けた」という言葉だけでは足りない敗戦がある。
宇治山田商は優勝校と同じ大会に出ただけではない。
その優勝校がまだ優勝校になる前に、最初の大きな壁になった。
結果は初戦敗退である。
でも、十五回4-4という数字は消えない。
負けた学校の側から大会を見ると、優勝物語の風景まで少し違って見えてくる。
もう一つの三重の初戦|2018年・白山0-10愛工大名電
三重の初戦史から、もう一校だけ外したくない学校がある。
白山高校だ。
2018年夏。
三重県立白山高校が、春夏を通じて初めて甲子園に出場した。
少し前まで、夏の三重大会で10年連続初戦敗退。
東拓司監督が赴任した2013年当時、部員はわずか5人だったという。
そこから甲子園へ。
「日本一の下剋上」と呼ばれた。
甲子園では愛工大名電に0-10。
試合には完敗した。それでも白山の場合、そのスコアだけをもって夏を語ることは、たぶんできない。
そして白山を甲子園へ連れてきた東拓司監督には、その後がある。
白山を離れた後、東監督は同じ三重県立の昴学園へ赴任した。
こちらも長く夏の初戦敗退が続いていた学校だった。
そして2026年春。
昴学園は三重大会で初優勝した。
白山で奇跡を起こした人が、今度は別の県立校で新しい物語を作っている。
こういう「その後」を知ると、2018年の白山0-10というスコアも違って見える。
あれは物語の終点ではなかったのである。
三重5-4広陵。
これは「勝った初戦」である。
宇治山田商4-4佐賀北、再試合1-9。
これは「負けた初戦」である。
では、白山0-10愛工大名電は何なのだろう。
僕には、少し種類が違って見える。
白山の場合、スコアボードに学校名が表示された時点で、すでに一つの奇跡が完成していた。
五人しかいなかった野球部。
何年も初戦で負け続けた県立校。
その学校が、甲子園の一塁線と三塁線の間に九人で立っている。
0-10。
もちろん悔しい。
でも、高校野球の価値を勝敗だけで測ってしまえば、この夏の一番大切な部分を落としてしまう。
初戦にはいろいろな形がある。
勝って歴史が始まる学校もある。
負けても歴史に残る学校もある。
そして、そこへ辿り着いたこと自体が歴史になる学校もある。
だから初戦は面白いのである。
まとめ|三重の初戦は「その先」を見ると面白い
2014年、三重高校。
九回二死、2点差。
そこから追いつき、延長十一回で広陵を破った。
そして決勝まで行った。
2007年、宇治山田商。
のちの全国王者・佐賀北を十五回まで止めた。
再試合で敗れた。
2018年、白山。
0-10で敗れた。
でも、その学校が甲子園へ来たこと自体がニュースになった。
そして2026年。
三重高校が、2014年以来12年ぶりの8強へ戻ってきた。
こうして並べると、初戦の意味は試合終了の瞬間だけでは決まらないのだと分かる。
その先で決勝へ行くことがある。
負かされた相手が全国優勝することがある。
監督が別の学校へ行き、また新しいチームを作ることもある。
記録を調べていると、人が動いている。
人を追っていると、昔のスコアが今へつながってくる。
そして今、2026年の三重高校がまた甲子園を勝ち進んでいる。
十二年前と同じ結果になる必要などない。
ただ、あの2014年も、すべては一つの初戦から始まった。
それを覚えているだけで、次の試合を見る景色が少し違ってくる気がする。
三重の甲子園初戦史|よくある質問
関連記事
参考文献・情報ソース
日刊スポーツ|2014年・三重―広陵 スコア速報
https://www.nikkansports.com/baseball/highschool/sensyuken/2014/score/2014081304.html
三重5-4広陵、延長11回のイニングスコア、投手、本塁打などの確認に使用。
日刊スポーツ|三重、押し出しサヨナラで3大会ぶり1勝
https://www.nikkansports.com/baseball/highschool/news/p-bb-tp3-20140814-1350528.html
9回の同点劇、延長11回の宇都宮東真の押し出し四球、当時の三重高校の背景、中村好治監督の練習方法などの確認に使用。
阪神甲子園球場|第96回全国高等学校野球選手権大会・大会日程
https://koshien.hanshin.co.jp/highschool/summer2014/schedule.html
2014年の三重高校の広陵、大垣日大、城北、沖縄尚学、日本文理との試合結果確認に使用。
日本高等学校野球連盟|第96回全国高等学校野球選手権大会
https://www.jhbf.or.jp/sensyuken/2014/
決勝で大阪桐蔭が三重に4-3で勝利し、三重が準優勝した大会結果の確認に使用。
朝日・日刊スポーツ 高校野球|2007年8月14日 佐賀北―宇治山田商
https://smart.asahi.com/v/koshien/game/2007/400/15491/index.php
4-4の延長15回引き分け、投手、中井の3点三塁打、佐賀北の追い上げなどの確認に使用。
朝日・日刊スポーツ 高校野球|2007年8月16日 佐賀北―宇治山田商 再試合
https://smart.asahi.com/v/koshien/game/2007/400/15497/index.php
再試合9-1、史上5度目の引き分け再試合、両校の投手リレー、試合経過の確認に使用。
佐賀県立佐賀北高等学校野球部OB会|2007 優勝への軌跡
https://www.sagakitaob.jp/main/75.html
宇治山田商との引き分け・再試合から、前橋商、帝京、長崎日大、広陵を破って全国優勝するまでの大会経過確認に使用。
日刊スポーツ|2018年 白山―愛工大名電
https://www.nikkansports.com/baseball/highschool/sensyuken/2018/score/2018081104.html
白山の甲子園初出場、愛工大名電との試合記録確認に使用。
web Sportiva|東拓司監督と白山・昴学園の再建
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/hs_other/2026/07/14/_16/
東拓司監督が白山を10年連続夏初戦敗退から甲子園へ導いたこと、その後昴学園でチーム再建を進め、2026年春の三重大会初優勝につなげた経歴の確認に使用。
ベースボールチャンネル|2026年・三重、12年ぶり夏ベスト8
https://www.baseballchannel.jp/etc/283351/
2026年8月15日の三重5-2履正社、2014年以来12年ぶりのベスト8進出の確認に使用。
阪神甲子園球場|第108回全国高等学校野球選手権大会・大会日程
https://koshien.hanshin.co.jp/highschool/summer2026/schedule.html
2026年8月16日時点の大会結果、および8月18日の準々決勝「天理―三重」の予定確認に使用。
